台風が過ぎると、アジが増える?
— 東京湾・4つの台風の「前後」を釣果データで見てみた
先日(2026年6月3日)、台風6号で横浜の海づり施設(本牧・大黒・磯子)が休園・開園見送りになりました。その前後で「釣れる魚ががらりと変わった——イカ(シリヤケイカ)が終わって、アジが好調に転じた」という声を、あちこちで耳にしました。本当でしょうか? そして過去の台風でも同じことが起きていたのでしょうか。溜まってきた釣果データで、興味本位に確かめてみました。
1まず6月3日・台風6号の前後を見る
混雑した日ほど釣果(匹数)は増えるので、ここでは「来場者1000人当たりの釣れ具合」=釣果合計 ÷ 来場者数 × 1000で比べます。台風の前2週間と後2週間(横浜3施設の合計)を並べると——
数値は「尾/1000人(来場者で正規化)」。横浜3施設の合計。
数字の上でも、体感どおりでした——アジは約3.6倍、シリヤケイカは4割弱に。「イカが終わってアジが来た」が、はっきり出ています。ただし1回だけでは「たまたま」かもしれません。
2過去の台風でも「アジ↑」は起きていた
そこで、データのある期間(2025年2月〜2026年6月)で横浜の施設に実際に影響した台風を気象の記録から拾い、同じように前後を比べました。「関東接近」とされても、当日に施設が晴れで来場者の谷もない台風(8月の9号など)は“ローカルには無影響”として除いています。
| 台風(接近日) | 区分 | アジ(前→後) |
|---|---|---|
| 6号 チャンミー(2026/6/3) | 直撃 | ↑3.6倍 |
| 15号 ペイパー(2025/9/5) | 直撃 | ↑1.8倍 |
| 22号 ハーロン(2025/10/9) | 直撃 | ↑2.3倍 |
| 5号 ナーリー(2025/7/15) | 非直撃(対照) | →ほぼ横ばい |
横軸=アジの倍率(来場者1000人当たりで比較・横浜3施設合算)。色の濃さは下の§3と共通の目安です。
合算では、直撃した3つの台風すべてでアジが増え、まっすぐ通り過ぎただけの5号では横ばい。「直撃のあとにアジ」という気配が、4回ぶんでも見えてきます。
3ただし“施設まかせ”——どこでも増えるわけではない
面白いのはここからです。同じ台風でも施設によって出方が違いました。アジの前→後(1000人当たり)を施設別に並べると——
| 台風 | 本牧 | 大黒 | 磯子 | 3施設そろった? |
|---|---|---|---|---|
| 6号(6月) | ↑3.8倍 | ↑6.8倍 | ↑1.3倍 | ○ 全部↑ |
| 15号(9月) | ↑2.0倍 | ↑1.8倍 | ↑1.3倍 | ○ 全部↑ |
| 22号(10月) | ↑3.4倍 | ↓0.7倍 | ↓0.8倍 | ✗ 本牧だけ |
| 5号(7月・非直撃) | ↑1.8倍 | ↓0.4倍 | ↓0.6倍 | ✗ 本牧だけ |
施設×台風のアジ倍率。緑=増・赤=減、色が濃いほど変化が大きい(上の色スケール参照)。本牧だけが4回とも緑。
初夏(6号)と初秋(15号)の直撃では3施設そろってアジ増。でも晩秋(22号)と非直撃(5号)では本牧だけが増え、大黒・磯子はむしろ減りました。一方で本牧のアジは4回とも必ず増えています(4/4)。本牧は3施設でいちばん大きく(来場者は大黒の約2倍以上)、合算の数字も本牧に引っぱられやすい——その本牧で毎回増えるのは、注目してよい点です。
4「イカが終わった」のは、台風のせい?
では当初の主役、シリヤケイカはどうでしょう。実はシリヤケイカを多く記録しているのは大黒だけ(本牧・磯子はほとんど記録がありません)。つまり「イカが終わった」は、主に大黒の話です。そして大黒のイカは台風後に確かに減っていますが——前の年の同じ時期にも、イカは同じように減っていました。シリヤケイカは春のイカで、毎年ちょうどこの初夏に旬を終えるのです。
5どうやって調べたか
・「1000人当たりの釣果」で比較 — 混雑日に釣果が増える分を補正(尾/1000人)。
・台風は外部の記録で定義 — 来場者が減った日から逆算せず、気象の台風接近記録から選び、さらに施設データで“本当に影響したか”を裏取り(接近でも無影響なら除外)。
・「季節のせい」を差し引く — 前の年の同時期との比較と、台風直前の傾向を延長した予想、の2つの物差しで、季節分を引いてもなお増えているかを確認。
・魚の呼び名の違いに注意 — 施設で「イワシ」とまとめる所と「カタクチイワシ」と細かく書く所があり、単純合算は要注意。全施設でそろって数えられるアジを軸に置きました。
6正直なところ — これは「観察」です
釣り人にとっては——
台風一過の直後、とくに本牧でアジを狙ってみる。そんな“手がかり”の一つになれば、と思います(保証はできませんが!)。
ここ数年、異常気象と思えるような荒天が増え、思うように竿を出せない日も多くなりました。でも、釣りに行けない日は、過去のデータから近い将来のチャンスを探す好機と考えることもできます。荒天で家にこもる時間が、次の一手を仕込む時間になるかもしれません。
そして——私のようなデータ好きにとっては、こんな考察が一つあるだけで、台風のあと本牧へアジを狙いに行くのが、ぐっと楽しくなります。答え合わせが当たればうれしいし、外れたら外れたで、また新しい仮説を考えるのが楽しい。結局のところ、このサイトについてに書いたとおりなのです——「たとえボウズでも釣りって楽しい! でも釣れたらもっと楽しい」。このレポートが、その“もっと楽しい”を少しでも増やせたなら、これ以上うれしいことはありません。
▶このデータ、あなたも見られます
本レポートは、毎日更新している公開データから作っています。気になる魚種・施設・条件で、ぜひご自身で確かめてみてください。
📎 付録:分析の参考データ(データ好きの方向け)
指標は「来場者1000人当たりの釣果(その期間の釣果合計÷来場者数×1000、尾/1000人)」。前後は各イベントの前後14日(当日除外)。季節控除は 前年同暦比(生比÷前年同暦の生比)と 直前トレンド外挿 の2基準。両基準が同方向のみ「頑健」と判定。n=4(うち前年比可は6号のみ)。
① 対象イベント(外部台風カレンダー)
| 台風 | 接近日 | 区分 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 6号 チャンミー | 2026-06-03 | 直撃(東京湾波2.5m・3施設休園) | 可 |
| 15号 ペイパー | 2025-09-05 | 直撃(神奈川に記録的大雨・竜巻) | 不可 |
| 22号 ハーロン | 2025-10-09 | 直撃(東日本初の特別警報) | 不可 |
| 5号 ナーリー | 2025-07-15 | 非直撃(対照群) | 不可 |
| 却下:9号クローサ(8月)=関東接近もDB上ローカル無影響 | |||
② アジ 1000人当たり釣果(尾/1000人・合算)
| 台風 | 前 | 後 | 生比 |
|---|---|---|---|
| 6号 | 236 | 857 | ×3.6 |
| 15号 | 1306 | 2401 | ×1.8 |
| 22号 | 693 | 1571 | ×2.3 |
| 5号(非直撃) | 425 | 419 | ×1.0 |
③ アジ 施設別(前→後の倍率)
| 台風 | 本牧 | 大黒 | 磯子 |
|---|---|---|---|
| 6号(6月) | 3.8 | 6.8 | 1.3 |
| 15号(9月) | 2.0 | 1.8 | 1.3 |
| 22号(10月) | 3.4 | 0.7 | 0.8 |
| 5号(7月) | 1.8 | 0.4 | 0.6 |
→ 直撃の6号・15号は3施設一致。22号・5号は本牧のみ。本牧は4/4で↑。
④ 施設ごとの魚種記録のかたより(全期間 合計尾数)
| 魚種 | 本牧 | 大黒 | 磯子 |
|---|---|---|---|
| アジ | 224,912 | 101,051 | 31,131 |
| イワシ | 796,054 | 0 | 85 |
| カタクチイワシ | 1,753 | 86,598 | 2,782 |
| シリヤケイカ | 15 | 9,417 | 135 |
イワシ≒本牧/カタクチ・シリヤケイカ≒大黒。施設で記録の慣習が異なるため、横断比較は全施設で潤沢なアジ等に限るのが安全。解析:台風前後分析エンジン。これらは観察値であり、将来を予測するものではありません。
⑤ 他の魚種は?(一貫性で取捨)
アジ以外も同じ手順で全魚種を検証しています。カサゴは季節控除後に3イベントで増加が一致しましたが、回遊魚ではなく居着きの根魚で“増えた理由”の筋が異なり、施設別では弱い(揃うのは6号のみ)ため本文では扱っていません。シロギス・クロダイ・コノシロ・サバ・タコは台風ごとに増減の向きがバラつき、一貫した傾向は見られませんでした。ハゼや小型ベイト(サッパ・キビナゴ等)は単一イベントや少数ベースで、頑健とは判断していません。一貫性のなかった魚種は、こうして取捨しています。
※本レポートは釣果情報の観察に基づく参考情報です。実際の釣行は各施設の最新情報と安全を最優先にご判断ください。