大潮初日と、曇り空
— 「重ね掛け」を535日のデータで検証したら、“足し算”だった
この夏の本牧海づり施設に、印象的な一日がありました。7月27日——大潮初日で、空は曇り。一人当たりのアジは2.04匹と、隣の大黒(0.54匹)・磯子(0.42匹)を大きく引き離しました。そして2日後、晴れに戻った7月29日には0.52匹へ急落。「大潮初日」と「曇り」がそろった日に釣れて、晴れたら止まった——できすぎな並びです。
「大潮初日は釣れる」「曇りの日は釣れる」。それぞれは当サイトでも検証してきた傾向です。では、2つが重なると“相乗効果”でもっと釣れるのか? 535日・36回の大潮初日ぶんのデータで、まじめに検証しました。結論を先に言うと——2つの効果はどちらも本物。でも「重ね掛け」は相乗ではなく、足し算でした。
1きっかけ — 7月27日の本牧で何が起きたか
まず、この週に何が起きたかを見てください。
大潮初日の7/27、本牧だけがぐいと持ち上がっています。施設スタッフの現場の声も残っています。7/27朝の速報は「曇天のおかげか、まだこの時間もアタリが続いています」。翌7/28の総括は「日が差し込む時間があったせいか、たなはべた底のようでした」。現場も「光」を見ていました。
ちなみにこの週の最高は、実は7/24(3.27匹/人・曇りのち晴れ)。大潮ですらない若潮の日です。1週間の並びだけでも、「潮だけ」でも「天気だけ」でも説明しきれない気配がします。だからこそ、長期データの出番です。
実はこの7/27・28の本牧には、YouTubeチャンネル「ふれーゆフィッシング」さんが釣行されていました。「前回の大潮初日(7/13)が釣れていた。なら次の大潮初日はどうか」——そんな読みで日程を選び、見事に的中させています。その釣行の様子は動画でご覧いただけます:『【本牧海釣り施設】最大25cm!良型揃いで脂の乗った最高のアジを釣ろう!朝から晩まで、釣れる時間を徹底調査!』。本レポートは、この釣行をきっかけに「大潮×天気」をデータで深掘りしたものです。
2傾向① 「大潮初日ジャンプ」は本物(×1.28)
まず潮から。当サイトの既報の通り、本牧のアジは「大潮初日」に跳ねやすい傾向が統計的に確認されています(36サイクルの置換検定で p=0.041。レポート#3では大黒でも同じ「大潮初日ピーク」を扱いました)。今回のデータでは、季節をそろえた釣れ行き(後述のものさし)で、大潮初日の平均は1.21、それ以外の日は0.95——約1.28倍です。
大事なのは、これが「潮がいま大きく動いているから」ではないことです。効いているのは潮回りサイクルの“位置”——「大潮の入り」というタイミングそのもの。このメカニズムの深掘り(瞬間の潮の速さは実は効かない、という少し意外な話)は、次回のレポートで正面から扱う予定です。今回は「大潮初日ジャンプは実在する」まで押さえて、天気に進みます。
3傾向② 「曇りの日はよく釣れる」も本物 — しかも3施設で
次に天気。日報の天気表記でアジの釣れ行きを比べます。素の数字だと、夏(6〜8月)の本牧アジは晴れ0.61匹/人 vs 曇り1.88匹/人——約3倍の差があります。ただ、素の比較は季節や混雑のいたずらが混ざるので、季節をそろえた「釣れ行き」(その日の値÷前後15日の平均。1.0=その時期のふつうの日)で見ます。
3施設とも、まったく同じ階段ができました。晴れの日は平均の7〜8割、曇り・雨の日は1.1〜1.5倍。統計的にも3施設すべてで明確です(本牧 t=5.3、磯子 t=4.0、大黒 t=3.4——いずれも p<0.001)。レポート#3の時点では大黒の1施設・言及率ベースで「弱い支持」止まりだった光量説が、3施設・535日ではっきり姿を現した形です。
「曇りや雨の日は空いているから、一人当たりが増えて見えるだけでは?」——この疑いは潰してあります。夏の本牧では、曇りの日の来場者は平均532人と、晴れの日(465人)よりむしろ多い。空いているから釣れて見えるのではありません。またレポート#4で検証した「雨の当日はアジが増える」とも別物です——雨を含まない「曇りだけ」の日でも釣れ行きは高い(本牧1.05・磯子1.11・大黒1.14)。雨とは独立に、光量そのものが効いていると見ています。
さらに一歩、踏み込みます。ここまでの「晴れ・曇り・雨」は施設日報の表記で、同じ「曇り」でも空の暗さはさまざまです。そこで光量そのものを測ることにしました。気象庁・横浜地方気象台が計器で記録している日照時間(1年半・577日分)を昼の長さ(可照時間)で割った「日照率」——0が「一日じゅうほぼ日が差さなかった日」、1が「朝から晩まで日なた」の日です。営業日を暗い順に5等分して、釣れ行きを比べると——
「暗いほど釣れる」の正体は、なだらかな坂ではなく“スイッチ”でした。3施設とも、突出しているのはいちばん暗い帯——日照率ほぼゼロ、一日じゅう日が差さない日——だけ。それより明るい4つの帯は、薄曇りでも快晴でも、ほぼ横並びです。夏の本牧ではこの差がさらに開きます(最暗帯1.47 vs 最明帯0.67)。ちなみに、同じ「晴れ」表記の中の明るさの濃淡は釣れ行きと無関係でした(付録)——裏を返せば、施設日報の晴/曇/雨という3分類は、光量のものさしとしてかなり優秀だったということです。
「ちょっと曇り」では足りない。日がほとんど差さない“どんより・雨”レベルの日が、特別なのです。
では、この光量スイッチは一日の中でも働くのでしょうか——空が曇った“瞬間”に、アジは食い始めるのか。冒頭の施設速報「曇天のおかげか」は、それを匂わせます。きっかけの動画でも「特に今回は曇った途端に釣れ始めたシーンが多かった」と語られています。そこで10分単位の日照データと日中速報 約2.4万文で、晴→曇の転換(3施設で約460件)の前後を比べてみました。結果は意外にも——転換の直後から3時間後まで、平均でははっきりした効果は確認できませんでした(磯子にだけ弱い気配。同じ方法で朝夕マズメの効果は3施設とも明確に検出できるので、方法の感度不足ではありません。付録④)。どうやら光量は、瞬間の切り替えではなく「その日がまるごと暗いか」という日単位のスイッチとして効いているようです。“曇った瞬間に食い始めた”という現場の体感は、ちょうど夕マズメと曇天化が重なった、という組み合わせが正体かもしれません——この深掘りは続報で。
4本題 — では「重ね掛け」は相乗効果か?
ここからが本題です。実はこの仮説、この夏の「並び」から生まれました。直近7回の大潮初日を並べてみます。
跳ねた回はすべて曇り/雨系。晴れの2回はそろって不発。「晴れの大潮初日は、初日効果ごと消えるのでは?」——つまり足し算ではなく、掛け算(相乗)に見えます。正直、私もそう思いかけました。
でも、7回は7回。こういう“できすぎた並び”を見つけたときこそ、全期間で答え合わせをするのがデータ屋の作法です。
そこで、535日に含まれる36回の大潮初日すべてを、天気で色分けして並べました。
一目でわかります。黄色(晴れの初日)にも、高い回がちゃんとある。2025/2/26と3/13は晴れの大潮初日で釣れ行き2.4倍超。1/17は1.77、12/18は1.59。逆に青(曇り/雨の初日)にも、4/30や6/28のような沈んだ回が普通にあります。「晴れの初日は不発」という直近の印象は、5/30と6/14の2回がたまたま並んだものでした。
きちんと集計すると、こうなります。
晴れの日でも、大潮初日は×1.30。曇り/雨系の日でも×1.22。——初日ジャンプは、天気に関係なくほぼ同じ倍率で乗っています。統計的にも、交互作用(=相乗のぶん)はゼロと区別がつきません(I=+0.009、置換検定p=0.47。仮説のもとになった今夏を除いた期間だけで見ると符号は逆転すらします)。天気の表記を気象庁の日照率(定量)に置き換えて同じ検定をしても、やはり相乗は出ません(付録)。
「大潮初日×曇り」が最強なのは、相乗効果だからではなく、2つの独立した追い風が“足し算”で重なるから。晴れの大潮初日も、悪い日ではありません——底上げ×1.3が効いて、その時期のふつうの日くらいには釣れています。
実際、直近で最上位セル(大潮初日×どんより)に入った2回——7/13と7/27——はどちらも跳ねました。7/13の施設総括は「1日どんよりとした天気で蒸し暑く、時々雨が降りました」——気象庁の記録でも、この日の日照は終日ゼロです。そして日中速報には「沖桟橋外側、曇天のおかげか日中もアジがポツリポツリと釣れています」と、7/27の朝とまったく同じ「曇天のおかげか」という言葉が残っていました。現場のスタッフは、データが指すものを先に見ていたのかもしれません。
正直な注①(後知恵の告白):この検証は「印象的な並びを見つけてから、あとづけで検証した」ものです。こういうとき、仮説を思いつかせたデータ自身に答え合わせをさせると、偶然の並びを「発見」と誤認しがちです(後知恵バイアス)。そこで判定は仮説形成前の期間(2025/1〜2026/4)を分けて確認しました。結果、その期間では晴れの初日のプレミアム(×1.44)が曇り/雨系(×1.24)を上回っており、相乗説はここでも不支持です。
正直な注②(残った宿題):ただし、晴れの初日で跳ねた例(2/26・3/13・1/17・12/18)は冬〜春に集中しています。夏の晴れの初日(5/11・5/30・6/14・7/9・7/23・8/22)はすべて低調でした。「夏の強い日差しに限れば、初日効果を打ち消すことがあるのか」——夏の晴れ×初日はまだ6回分しかなく、答えを出すには数が足りません。なお日照率で測り直しても、夏の「明るい初日」(日照率0.5超)で跳ねた例は3施設を通じてゼロでした。決めつけずに、宿題として持ち越します。
5で、明日からどう釣りに活かすか
② 狙い目は“どんより”——日がほとんど差さないレベルの曇り・雨。光量の効きはスイッチ型で、薄曇り程度では変わりません。予報が「曇り時々晴れ」なら過度に期待せず、「一日どんより・雨」なら格上げです(3施設共通で、ふつうの日の1.2〜1.45倍)。
③ 最強の組み合わせは「大潮初日×曇り」。相乗ではなく足し算ですが、足し算でも最上位のセルです(ふつうの日の1.4倍前後)。
④ 晴れの大潮初日も、見限らない。平均すれば「その時期のふつうの日」程度には釣れています。
⑤ ただし保証ではありません。曇りの初日でも沈む日はあります(4/30・6/28)。確率を少し引き寄せる話です。
⑥ そして「どう釣るか」は、達人の動画から。データ屋として正直に言うと、この手の傾向分析で示せるのは「ふつうの日の1.3〜1.5倍、条件が重なってもせいぜい2倍以内」という釣行日選びの底上げまでです。ところが釣りの達人たちは、当たり仕掛け・餌の種類・釣法・タナの探り方を最適化することで、同じ日・同じ釣り場からベースラインの数倍の釣果を引き出してみせます。「いつ行くか」はデータで、「どう釣るか」はレポート#3でもご一緒したふれーゆフィッシングさんはじめ、達人たちのYouTubeで。この2つの掛け合わせこそ、本当の“重ね掛け”かもしれません。
6この検証の限界(正直に)
- 天気は施設日報の表記の粗い分類です(「晴」だけ→晴れ、「曇」を含む→曇り系、「雨」を含む→雨系)。時間帯ごとの日照は考慮していません。「曇りのち晴れ」のような混在日の扱いを変えても結論は同じでした。
- 光量の定量指標「日照率」は、気象庁・横浜地方気象台の日照時間÷可照時間です。気象台は本牧から約4km内陸にあり、海の上の空とは多少ずれる可能性があります。可照時間は太陽位置の近似計算によります。
- 「大潮初日」は施設公表の潮回りラベルで「大潮」が始まった日としています。潮汐表の朔望とは1日ずれることがあります。初日を「初日〜2日目」に広げても結論は変わりません(付録)。
- 「釣れ行き」は一人当たりアジ÷前後15日平均という当サイト独自のものさしです。釣果は施設の聞き取り集計に依存します。
- 有意性の検定は、サイクルごとに位相を回転させる置換検定です。天気とサイクル位置の偶然の重なりを考慮しています。
- 3施設×複数の切り口を検証しているため、単発のp≈0.02〜0.05は慎重に扱っています(大黒のコラムはこのため「気配」止まり)。
- 本レポートは過去データの観察であり、将来の釣果を保証・予測するものではありません。
▶このデータ、あなたも見られます
本レポートは、毎日更新している公開データから作っています。潮回り別・天気別の集計は分析ダッシュボードでいつでも確認できます。次に釣行日を選ぶとき、潮見表と週間予報を重ねて眺めてみてください。
最後に。本レポートのきっかけをくださった「ふれーゆフィッシング」さんに、心より感謝します。「予想して、釣って、答え合わせをする」——前回のレポート#3に続き、今回もその姿勢に引っ張ってもらいました。
📎 付録:手法と数値の詳細(データ好きの方向け)
① データとものさし
横浜3施設(本牧・大黒・磯子)の公式日次釣果 2025/1/31〜2026/7/30(本牧535日・36完結サイクル)。指標は一人当たりアジ(匹数÷来場者数)を±15日移動平均で割った季節調整済みの相対値(rel)。「大潮初日」は施設公表の潮回りラベルで「大潮」runが始まった日(サイクル位相0)。天気分類は日報表記から:「雨」含む→雨系/「晴」+「曇」→混在/「晴」のみ→晴れ/「曇」のみ→曇り。本文の「曇り/雨系」は雨系+曇り+混在(仮説どおりの分類)。混在を除いた感度分析でも結論は同じ。
② 主要な数値(本牧)
| 検証 | 効果量 | p値 / n |
|---|---|---|
| 大潮初日プレミアム(全天気) | rel 1.21 vs 0.95(×1.28) | 既報 p=0.041(位相回転置換) |
| 晴れの日のみ | 1.00 vs 0.77(×1.30) | n=15/237 |
| 曇り/雨系のみ | 1.36 vs 1.12(×1.22) | n=21/244 |
| 交互作用(相乗のぶん) | I=+0.009 | 片側p=0.47(位相回転置換4,000回) |
| 仮説形成前のみ(〜2026/4) | I=−0.085(符号逆転) | 片側p=0.60 |
| 初日を位相0-1に拡張 | ×1.35 vs ×1.26、I=+0.181 | 片側p=0.19 |
| 天気主効果 曇+雨 vs 晴(通年) | 1.28 vs 0.79 | Welch t=5.30 p<0.0001 |
| 磯子 / 大黒 | 1.32 vs 0.74 / 1.14 vs 0.84 | t=3.95 / t=3.41 いずれもp<0.001 |
| 大黒の交互作用(コラム・探索的) | 初日 曇雨×1.52 vs 晴×0.89、I=+0.614 | 片側p=0.017(mixed除外だとp=0.072) |
交互作用の検定は、サイクルごとに位相を独立に回転させる置換検定(天気は固定)。仮説は本牧の直近7回の観察(2026/5〜7)から立てたため、判定は全期間に加えて仮説形成前(2025/1/31〜2026/4/30)でも確認した。解析スクリプトは再現可能な形で管理しています(seed固定)。
③ 光量の定量化(日照率)
気象庁・横浜地方気象台の日別日照時間 577日分(2025/1/31〜2026/7/30)を可照時間(太陽赤緯の近似計算)で割った日照率(0〜1)を光量の連続指標とした。天気表記との整合: 晴れのみ表記の日の平均日照率0.78 / 晴曇混在0.43〜0.49 / 曇りのみ0.13 / 雨系0.09(単調に対応・ものさしとして妥当)。
| 検証 | 効果量 | p値 / n |
|---|---|---|
| 日照率5分位の釣れ行き(通年・最暗帯 vs 他4帯) | 本牧1.42・磯子1.45・大黒1.20 vs 0.73〜1.07(閾値型) | corr −0.19〜−0.25(n=526〜533) |
| 夏期の本牧 | 最暗帯1.47 vs 最明帯0.67 | corr −0.31(n=145) |
| 「晴れ」表記内の明暗差(上下半分) | 0.79 vs 0.80(差なし) | 3施設とも p>0.5 |
| 交互作用の頑健性(本牧・日照率中央値で明暗2分) | 暗×1.18/明×1.39、I=−0.09 | 片側p=0.61(相乗なし・#6本文と一致) |
| 大黒の交互作用(日照率版・探索的) | 暗い初日×1.47 vs 明るい初日×0.98、I=+0.50 | 片側p=0.040 |
④ 分単位の「曇った瞬間」検証(§3末尾の要点)
気象庁横浜の10分日照546日×日中速報23,622文(3施設)。晴→曇転換=直前60分の日照合計30分以上→直後60分が5分以下。転換前90分と後90分のアジ・ポジティブ言及数の差Δを、同時刻・転換なしの別日に置いた擬似イベント(clock-matched置換2,000回)と比較した。
| 検証 | 効果量 | p値 / n |
|---|---|---|
| 晴→曇転換の前後(0〜90分後) | Δ 本牧+0.02・大黒−0.01・磯子+0.19 | p=0.71/0.82/0.098(イベント156/152/156件) |
| ラグ窓(30〜120/60〜150/90〜180分後) | 本牧・大黒はすべてゼロ近傍〜負 | p>0.8(磯子は30-120分後もΔ+0.19 p=0.10) |
| 文レベル 日陰 vs 日なたの瞬間(within-day) | +2.8〜+4.7pt → 9-15時限定でほぼ消滅 | =朝夕マズメとの時計交絡 |
| 陽性対照: マズメ vs 昼(同じ枠組み) | +7.9/+10.6/+21.9pt | 3施設とも p=0.0005(方法の感度は十分) |
| 検出力(効果注入シミュレーション) | +0.2〜0.3件/90分(基準0.3〜0.4件の約+50〜100%)なら検出可能 | 検出率50〜100%(500回) |
きっかけ:YouTubeチャンネル「ふれーゆフィッシング」さんの本牧アジ釣行動画(7/27・28)
関連レポート:#3 ふれーゆさんの大黒メソッドは本当か/#4 気圧ではなく、雨だった
※本レポートは釣果情報の観察に基づく参考情報です。実際の釣行は各施設の最新情報と安全を最優先にご判断ください。